それでも僕は便所飯をしていない
「なんでトイレでご飯食べてるの?」
違う。
ここはトイレじゃなくて更衣室だ。
トイレは更衣室の向かいだ。
〜〜〜
僕はとあるダンススタジオで、子供向けのダンスレッスンを受け持っている。
今日(土曜)の僕のクラスは、15時半から16時半。
なので、大体15時前くらいにスタジオに行き、昼食を食べてからレッスンに挑む。
昼食の時間が遅いのは許してくれ。
もう身体がこの時間で慣れてしまっているのだ。
とりあえず、僕は毎週土曜は15時くらいに昼食を食べている。
更衣室で。
なぜ更衣室で食べているかというと、2つ理由がある。
1つ目は、単純に他の場所がないからだ。
ロビーはスタジオの利用者様で埋め尽くされている。
空いているスペースは、更衣室くらいである。
2つ目は、子供たちの襲来を恐れているからだ。
別に子供は嫌いではない(というか嫌いだったらダンスレッスン受け持ってない)が、昼食を妨害されるのはちょっと困る。
過去にロビーで昼食を食べたことがあるが、とある子供が弁当にぶつかり、盛大に中身をぶちまけたことがある。
以来、子供たちがいるときは、基本的に更衣室で昼食をとるようにしている。
〜〜〜
今日も昼食を更衣室で食べていると、突然、更衣室のドアがガララッと開いた。
そこにいたのは、絶界寺=トルストイ・神子ちゃん(仮名, 5歳)だった。
自分で言うのもなんだが、神子ちゃんは僕に懐いているようだ。
よく右脚に絡みついてきて、俺が歩こうが踊ろうが離れなくなる。
マーキングしてくる抱き付き人形である。
で、その神子ちゃんが僕にこう言い放ったのだ。
「なんでトイレでご飯食べてるの?」
5歳児の神子ちゃんにとって、トイレ近辺はすべからく”トイレ”と認識されるのであろう。
たとえ便器がなくても、トイレの近くの部屋なら、そこは”トイレ”なのだ。
”トイレ”は排泄物を出すところに限定されない。
”トイレ”という特定の領域があり、その内側に存在する全ての空間は、神子ちゃんにとってまさしく”トイレ”なのだ。
だから僕は、少なくとも神子ちゃんにとって、トイレで昼食をとっていることになる。
ここは更衣室ではない。トイレだ。
したがって僕は、いわゆる「便所飯」をしていることになる。
しかし、いや、But、僕にとってここは更衣室である。
トイレとは別の領域である。
神子ちゃんの認識に惑わされてはいけない。
更衣室は、トイレではない。
周囲の人に惑わされないよう、僕は自分の芯を持って生きたい。
強く、生きたい。
なんの話やねん。